ぼんやりと考えている人

ひろしまなおき (廣島直己)
名前: ひろしまなおき (廣島直己)
住処: シリコンバレー
職業: しがないプログラマ
家族: 愛妻一人、息子一人、娘一人
道具: ハーレー二台、ギター三本
電紙: n at h7a.org

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以前にぼんやりと考えたこと

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04 September '2006 - 15:46 | 単車と旅 Sturgis 2006 (その3)

旅の三日目、八月七日。月曜日。

目が覚め、時計を確認すると、ちょうど六時。ちょっと早いけれど、C が起きている物音が聞こえたので起きることにする。

テントの外に出てみると、空は快晴だけれど、気温は 10度くらい。かなり寒い。起きたときの格好、Tシャツに短パンではちょっと無理。さっさとジーンズをはき、Tシャツの上に長袖のフリースを着る。それでもちょっと寒い感じ。

寒いのはおなかがすいてるせいもある。とりあえず、何か食べよう。

昨日 Kanab で買ったチキンパスタが袋も開けずに残っていたので、それを朝食にしよう。自分としてはもう少し軽い朝食が好ましいのだけれど、贅沢を言っても仕方がない。あるものを食べるしかない。適当に炒めて食べる。思いのほかウマイ。

ちょっと量が多かったのだけれど、捨てるのももったいなので C と二人でぜんぶ平らげる。

あー、おなかいっぱい。幸せ。と寛いでいたら、ガサガサと音がしたので、目をやると鹿がすぐそこにいた。C の体が排泄した物を舐めている。そんなんでいいのか。

C の排泄物を食す鹿

テントをたたみ、荷物を積み込み、North Rim へ向かう。八時。

八時半、North Rim に到着。

今日はモニュメントバレーまで 300マイル (480km) ほど走ればいいだけなので、時間はたっぷりある。急ぐ理由はまったくない。近場をあちこち歩き回り、ビジターセンターの外のテラスでコーヒーを飲みながら、グランドキャニオンを背景にくつろぐ。

North Rim からみえるグランドキャニオンは、反対側、つまり South Rim からみえるものと、とくに違いが見当たらない。写真を見比べて違いが分かる人は専門家だけだろうと思う。おれには違いが分からない。ただ、ビスタポイントの数は 圧倒的に少ないし、遊びに来ている人の数も圧倒的に少ない。初めて行くなら South Rim なのかも知れないけれど、行ったことがある人は North Rim の方がのんびりできていい気がする。おれは、次も North Rim に来ようと思う。

Grand Canyon North Rim

グランドキャニオンの絶景を十分堪能し、十時半、出発。

まずは AZ-67 を Jacob Lake まで北上。

この AZ-67 は、とくに何の期待もしていなかった道なのだけれど、走ってみたら最高に気持ちいい道だった。

林を切り裂く草原地帯のど真ん中に敷かれたその道は、適度に高低さがあり、大きなカーブでゆったりと曲がる、まさにハーレーで走るために作られたような道。70 MPH (112km/h) くらいでのんびりと、冷たい風を切り裂いていく。アリゾナは暑いイメージしかなかったのに、いい意味で裏切られた感じ。

AZ-67: A Road in a Meadow

十一時過ぎ、Jacob Lake に到着。とりあえず、ガスの補給。

US-89A を西に向かう。グランドキャニオンから下りていくに従い、どんどん気温はあがる。Tシャツに長袖フリースに革ジャンというセッテイングは、あっという間に汗まみれになる。

一時、Marble Canyon で昼飯。ホットドッグとサンドイッチとレモネード。定番のジャンクフード。

それにしても暑い。暑すぎる。さっきまで寒かったというのに、あっという間に酷暑に早変わり。とうとうナバホ国に来たなあと実感。

US-89A: バイクは日陰にしか停めたくない in Marble Canyon

アリゾナ州(とユタ州の一部)にあるナバホ国は、ナバホ国独自の法律でインディアンにより運営される国。アリゾナ州の中にあるけれど、アリゾナ州ではない。酒も買えないし、夏時間を採用しているし、観光客以外はインディアンしか住んでいない。というわけで、ここで時計の針が一時間進む。が、そんなことは気にしない。

Bitter Springs から US-89 を北上し、Page に向かう。

途中、左手に Horseshoe Bend へ向かう駐車場が目に入る。三年前は上から来たので分かりにくかったけれど、下から来るとけっこう分かりやすいところにある。誰もいなかったら行ってみようかとも思ったけれど、車が二台も止まっていたのでやめた。今日は、C のためにも早めにモニュメントバレーに着く必要があるので、ここで一時間も道草している時間はない。

また、かなり暑かったというのもある。三年前は熱中症になりかけてひどい思いをした場所だ。

二時過ぎ、Page の手前で US-89 から AZ-98 へと右折。念のためにいったんバイクを停めて、地図を確認する。

すると携帯がなった。なんとタイミングのいいことだろう。バイクで走っている最中は、携帯の音もバイブもまったく感じない。たまたま分岐点で地図を確認していたという絶妙のタイミング、しかも Page の近くで電波の届くエリアにいた時に電話をかけてきたその相手は、Y だった。おぉ、素晴らしすぎる。どうしているか聞きたいところだった。

「ところで、バイクは借りられた?」

「昨日、借りて、もう発ったよ。」

おおぉ。今日くらいにバイクを手配できるかって話だったのに、昨日の時点で出発してたのか。何が起きてそうなったのかは分からないけれど、それは会ってから聞けばいい。いやはや、嬉しい誤算だ。

「こっちは Page にいるんだけど、そっちは今、どこ?」

「Carson City でメシ食ってるところ。これから Fallon まで走って、そこから北上して I-80 で西に行こうと思ってる」

「うーん、I-80 よりも US-50 を横断した方がいいと思うよ」

「昨日、また風邪が悪化しちゃった感じで、ちょっとでも楽したいところなんだよねー」

うーん、おれ的には US-50 の方がぜんぜん楽だし、楽しいのだけれど、おれの好みを無理強いしても仕方がない。Y は US-50 がどんな道かは知らないんだし、I-80 でさくっと横断した方がいいって思うのも無理はないのかも知れない。

とりあえず、お互いの状況と今後の予定を手短に報告し合い、電話を切る。

とにかく、すでに出発していたというのは朗報だ。今ごろ、サンフランシスコ観光でもしながら、もう面倒だから車で行こうか、なんて言って盛り下がってるかも知れないなあ、なんて C と二人で心配していたのだけれど、まったくの杞憂に終わって最高に嬉しい。今、あっちはあっちで旅をしていて、あと何日か後にはどこかで合流できると思うと、さらにテンションが上がってくる。

それにしても、もし Fallon から I-80 方面に北上しちゃったら、US-50 の美味しいところはまったく走らずに終わってしまうということになるのが残念。予定通りに一緒に走っていられたら、絶対に US-50 を一緒に横断できたのになあ。

やっぱり、無理にでも US-50 を走るように勧めるべきだったんじゃないかなあ。なんか、Y に悪いことをしたような気になる。訊かれてもいないことを無理に勧めるのは相手に対して失礼だという思いもあれば、絶対にいいと自分が思っていることをちゃんと勧めきらないというのもどうかという思いもある。

「夫婦二人だけで走ってるんだし、きっとその方が嫁さんにとっていいって Y が判断したってことだよ。それでいいんだって。」C に助けられる。

先を急ぐ。

三時過ぎ、US-160 に合流、北上。

三時半、Tonalea でガスの補給。

このままモニュメントバレーに向かうつもりだったけれど、ここでガスが満タンになったのならちょっとだけ寄り道したい。四年前に行ったときには時間が遅すぎてビジターセンターが閉まっていた国定公園が 8マイル (12.8km) ほど先にある。往復で一時間ほどの道草だけれど、「寄ってもいい?」「いいよ」C がいいと言ってくれることが分かっていて聞くのでズルいのだけれど、一応、聞く。

四時、Navajo National Monument に到着。ビジターセンターで目当ての Betatakin への行き方を訊くと、何マイルも歩かないといけないことが判明。ただ、見せてもらった地図にはマイルとキロの両方が書かれてあったのだけれど、計算がまったく合わない。マイルとキロのどっちの数値が正しいのかで、歩かないといけない時間がだいぶ変わってくる。どっちが正しいのか訊いてみるが、分からないという。というか、どっちかが正しいのだともしても、正しくない方は大きく間違っているということを指摘したのは自分が始めてだという。役に立ったのか、立ってないのか分からないけれど、治して置くようにお願いする。

Navajo National Monument, Navajo

いずれにせよ、歩いてる時間はないので Betatakin まで行くのは諦める。通り沿いから遠くに覗くアーチを見て、いつかゆっくり来ようと決意する。

四時四十分、US-160 まで戻って来る。あとはモニュメントバレーまで何もない。ただ、走っていくだけだ。

と思いきや、進行方向の空は真っ黒。雨が降っているのは見えないが、あの雲なら確実に雨が降りそうだ。上下ともにカッパを着て、雨に備えるとする。

降らないことを祈りながら US-160 を走り出す。そして、一分も経たないうちに雨がぽつりぽつりと降り始める。来た。カッパを着るタイミングは完璧だったようだ。

しかし、その雨はあっという間に豪雨となる。カッパを着ていようがいまいが、そんなことはどうでもいいとばかりに降りまくる。 バケツをひっくり返したどころの騒ぎではない。視界はほとんどゼロ。何も見えない。前も後ろも、どうなってるのかさっぱり分からない。バックミラーに映るライトが、かろうじて C の存在を証明してくれているようだけれど、体を激しく打ち付ける豪雨になすすべもない。

アクセルを緩め、徐行する。前がまったく見えないので、前進するのは怖いのだけれど、追突されるのも怖いので、とにかく一本橋を渡るようなスピードで前に進む。

前方に稲妻が落ちる。轟音が轟く。近い。大きい。怖い。また、落ちる。大自然の猛威にただただ恐怖を覚える。

好きなことをやっていて死ぬのだとしたら、それはそれで仕方ないと思う。もちろん、この旅の途中で死ぬつもりはないけれど、バイクに乗っている以上、事故って死ぬかもしれないという感覚は常にある。そうならないようにいつも細心の注意を払っているだけで、絶対に死なないとは言い切れない。今日、もしここで稲妻に殺されるのだとしたら、運が悪かったと思うしかない。

しかし、もしここで稲妻に殺されたとして、幼い子供たちは、お父さんの死をどう理解できるのだろうか。雷が怖くてトラウマになるに違いない。いや、そんなことはどうでもいい。きっと、いつか克服できるだろう。

問題は、子供たちには、稲妻で黒こげになったお父さんの顔を見せることができないということだ。女房は黒こげのおれを見て、現実を受け入れることができるだろうが、子供には絶対に見せられない。

うーむ。もし、ここでおれの命を奪う必要があるのなら、せめて顔だけは黒焦げにせずに死なせてくれないでしょうか。叶うのなら、子供たちには父さんの死に顔をちゃんと見せてやりたいのです。そうでないと、二人とも父さんがいなくなったことを理解できないに違いないと思うのです。幼い子供を残して死ぬのは忍びないし、まったく受け入れがたいことなのですが、せめて綺麗に死なせてはくれないでしょうか。

半ば本気で母なる自然にそう祈りながら、雷雨の中を少しずつ前進していく。後ろの C が着いてきているのかいないのか、まったく分からない。もう、気にもかけていない。

そして、少しずつ雨の威力は弱まり、だんだんとただの大雨に変わっていく。大雨はただの雨に変わり、やがて小雨へと変わっていく。

そして雷雨は過ぎ去った。あああああ、助かった!本当に怖かった。これほど怖い思いをしたことは記憶にない。もしかしたら死ぬのかもしれないと、本当に思った。

五時十分、Kayenta に到着。US-163 を北上し、先を急ぐ。

五時四十分、やっとの思いで Monument Valley に到着。

Monument Valley in Navajo

ジープツアーで中に行ったことがないと C が言うので、今日は必ずジープツアーをやりたいと思っていた。できればもっと早い時間に来たかったのだけれど、仕方ない。

三年前は一時間半のツアーだったので、今回は二時間半のツアーにしてみた。50ドル。運転手はハワードさん。

ジープに同乗したのはドイツ人親子五人。お父さん、お母さん、お母さんにべったりのマザコン息子、お父さん似のかなり美人の娘、そしてお母さん似のかなり可哀想な娘。激しく揺れる車に捕まり一所懸命にシャッターを押しまくる父と、そんな父さんを、「パパ、パパ、イッヒリーベシャウウェッセン!」みたいな感じで応援する娘たち。

ドイツ人なのに英語がかなりヘタだったのと、娘二人の差が印象に残った家族だった。

運転手のハワードさんは 30マイル (48km) ほど離れたユタ州の町に住んでいて、モニュメントバレーまで毎日仕事に来ている。息子が四人いるが、全員 Chicago や Salt Lake City などの都会に出て行ってしまったらしい。「まあ、ここにいたって他にやることはないし、仕方ないよね…」と寂しい顔をした。

前回は見られなかったモニュメントバレーの一番奥まで連れて行ってもらって、たっぷりとモニュメントバレーを堪能する。

Ear of the Wind, Monument Valley

暗くなってきたのでビジターセンターに戻り始める。いくら走っても着かない。相当、奥深くまで来ていたらしい。ビジターセンターに着いたときには、まっくらになっていた。

とりあえず、キャンプ場に向かう。暗いのでよく分からないが、あまり人はいない様子。好きなところを使っても良さそうだ。

ライトの明かりだけを頼りに、テントを張り始める。すると、さっきまで無風だったのが嘘のように、風がヒューヒュー吹き始める。

吹き始めたと思ったその風は、あっという間に強風へと変貌。まったく弱まる気配がなく、強くなっていく一方。

やっとの思いで設営したテントだが、杭で一部を止めてもそのまま吹き飛ばされそうな勢い。C のテントがひっくり返る。

いつもは左右 の外室をつくるための二本だけに使う杭を、六本全箇所に使かって完全に固定。それでも吹き飛ばされそうになるほどの強風。全ての荷物を中に入れて、重石にする。まさに台風と言ってもいいくらいの強風。ふつうに 立っているのも無理。おまけに風が吹くたびに、モニュメントバレーのあの細かく赤い砂が空を舞い、テントを叩きつける。バチバチバチバチッ!

うーむ。自然は厳しいなあ。

なにはともあれ寝床は確保したので、次はメシだ。

が、Kayenta で食料を調達しておく予定だったのをころっと忘れていた。雷雨をなんとかやり過ごした安堵感で、その後の予定をすっかり忘れていたのだった。うーむ。とりあえず手持ちのものを食っておくくらいしかない。

強風のなか、無理やりお湯を沸かし、カップラーメンを食うことにする。大きいカレーヌードル。温まる。ウマイ。

C に食うかと訊くと、いらないと言う。ウマイのに。まあ、そこでいらないって言ってしまうところが実に C らしいのだけれど。

仕方ないので、おれはもうおなか一杯だから、食っちゃってくれと言う。そんなら食うかと、なにげに一気食いする C。ウマイに決まってる。

それから、C が日本からもってきた柿の種と、初日に Eureka で買ったビールの残りがあったので、それを飲むことにする。ナバホ国は禁酒なので酒類を買うことはできないが、持ち込みの検査をしているわけではない。

ああ、今日も一日終わったなあ。いつかはモニュメントバレーでキャンプしたいと思っていたけれど、とうとう実現することができて、満足至極。

寒くなってきたところで、テントに入っていざ就寝。しようにも、強風が凄まじく、寝るに寝られない。こんな台風のなか、なんで野宿なんかしているのかと自問する。そして、空を舞った赤砂がテントを叩きつける音が物凄い。どうやって寝られるのか分からない。さらに、フライの下から侵入して上まで舞う細かい赤砂が、ときどきテントの中にまで入ってきて顔にかかる。

三年前に反対側のホテルに泊まったときはまったく気がついてなかったけれど、モニュメントバレーの夜は、かくも過酷なんだなあと実感。


  • 総合走行距離: 1234.78 マイル (1987.18 km)
  • 今日の走行距離: 285.47 マイル (459.41 km)
  • 最高速度: 92.0 マイル/時 (148.0 km/h)
  • 移動時間: 4時間44分
  • 移動平均速度: 60.3 マイル/時 (97.0 km/h)
  • 最低最高高度: 3608〜9092 フィート (1099〜2771 m)
  • $3.369 x 3.703G = $12.48 — 11:12:57 JACOB LAKE CHEVRON — Jct US-89A & AZ-67, Jacob Lake, AZ
  • $3.429 x 3.788G = $12.99 15:35:00 BLACK MESA CONOCO — Hwy 160 Jct 564, Tonalea, AZ

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待ちに待った旅行記。なんだか質の良いロードムービーなぞ見ている気持ちになる。
今回はひとつひとつのエピソードが時間軸にそって流れているので、トピック毎に話を聞くのとはまた違った感慨があるなあ。
2週間走るってどんな気持ちか想像出来ないけど、すごくうらやましくなるなあ。

続きを楽しみにしてるんで、無理なく続けてちょ。
そう言ってくれると嬉しい。まじで。
その日にあったことを、メモを頼りに、朝から晩まで順番に思い出しながら書いてるんだけれど、自分でもまた旅をしているような錯覚におちいる。その日のできごとは全て分かってるはずなのに、どきどきわくわくしてるし(笑)
でもさ、毎日書くのって大変だね。なんで書き溜めてから始めなかったのかって後悔してます、はい(苦笑)
うーん、今妻も横にいて、彼女は明日の授業の予習してるんだけど、もうすっかりあの日に戻ってる。ヤバイ、マジで楽しすぎ。

  
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